大判例

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東京高等裁判所 昭和36年(行ナ)124号 判決

一 原告主張の請求原因第一ないし第三項の事実は当事者間に争がない。そして、本件においては、「導管(2)をとりつけたボンベ(1)中へ耐油性のゴムまたは合成樹脂製の燃料袋(3)を入れておき燃料袋(3)の首部(4)をボンベの細口部(6)中を通して外部の導管(5)に連続させた家庭用液体燃料を供給器の構造」を要旨とする本願実用新案が、「下方に液の送出管(a)と上部に口筒(e)をまたその上部に注入口(j)を有するゴム製容壜(b)を外囲(c)内に挿入し口筒(e)上部の外周に設くる鍔(g)により外囲(c)上端口を密閉し口筒(e)下方部は外周に加わる気圧により扁平状に圧着せらるべき傾向を有せしめたる噴霧器の構造」にかかる引用例から特別の考案力を要しないで容易に推考できるかどうかが争点である。

ところで、引用例が本願実用新案の出願前公知に属することは原告の明らかに争わないところであり、また、本願実用新案と引用例とがいわゆる(甲)の点、すなわち「圧縮空気供給用導管を有する容器内に、液体の排出導管を具えた弾性ゴム製の液体収容袋を装着し、容器内に圧縮空気を供給して液体収容袋内の液体を圧出するようにしたもの」であることにおいて、たがいに一致することは原告の自認するところである。

二 まず、原告は、右(甲)の技術は引用例が出願される以前から公知の事実に属するところ、本願実用新案はこの技術を引用例とは別異の家庭用液体燃料の供給器に応用する新規な考察にかかるものであるとする。本願実用新案が右(甲)の技術を家庭用液体燃料の供給器に適用したものであることは明らかであるが、もともと、ある既存の技術のもつ原理や抽象的構成は、その技術の当然の展開として、具体的な構成に移りうべき範囲をもつていることはいうまでもないところ、その展開の範囲に属する事項は、特段の事情のないかぎり当業技術者すなわちその技術の分野における通常の知識を有する者が当該技術にもとづいて容易に推考しうるものとして考案を構成しないものと解される。ところで、右(甲)の技術は、本願実用新案の出願前引用例において薬液等の噴霧器として公知になつていたところ、この技術を、噴霧器としてではないとはいえ、そのまま本願実用新案におけるとおりの構造の家庭用液体燃料の供給器として構成することは、右(甲)の技術の当然の展開としてその技術の及びうる範囲に属する事項というにじゆうぶんであり、当業技術者の右(甲)の技術にもとづききわめて容易に推考しうるものと認めることができる。しかも、本願実用新案は、それが家庭用液体燃料の注入供給装置の構造に関することによつて、その用いた右(甲)の技術ないしその構成自体の作用効果において、引用例が薬液の注入噴霧に関することと対比し、特段の差異を生ぜしめるにいたつているとは、認めることができないのである。もつとも、成立に争のない甲第一号証(実用新案登録願)中の本願実用新案の説明書によれば、本願実用新案にかかる液体燃料の供給器の効果として、「本案によると液体燃料を直接ボンベに接触せしめないのでボンベが液体燃料によつて腐蝕せられることがない、また、液化ガスまたは圧縮ガスが液体燃料へ直接ふれないのでこれに溶け込むことがないのでガスを経済的に使用することができるのである。」ことが掲げられているけれども、これらの効果は、そのうち顕著な経済的効果についてはこれを認め難く、その他は引用例における構造においても同様であり、したがつて、これらは、本願実用新案が家庭用液体燃料の供給器にかかるものであることにもとづくものとは認められないから、本願実用新案が引用例に比して顕著な技術的効果を具えるにいたつているということができないといわなければならない。

なお、原告は、右(甲)の技術は引用例の出願前から公知であつたというけれども、本件は、本願実用新案が既存の技術すなわち右(甲)の技術を含む引用例から当業技術者の容易に推考しうるものであるかどうかに関するから,右の公知の時期いかんにかかわらないことはいうまでもない。

したがつて、この点に関する原告の主張は採用できない。

三 つぎに、原告は、本願実用新案においては導管(5)は液体燃料の注入および送出の両用に用いられるが、引用例においては注入口(j)と送出管(a)とは別々に設けられているから、両者は構造を異にすると主張する。けれども、本願実用新案において、液体燃料を注入する場合、からになつた燃料袋(3)における導管(5)の先を注入しようとする液体の中に入れボンベ(1)中のガスをぬけば、燃料袋(3)はその弾性による復元作用で自然にふくらみ、中が真空になつて新たな液体が燃料袋(3)の中に入るというのであれば、それは、右(甲)の構造をとるものにおいて、とくに技術常識をまつまでもなく日常一般の常識によつてもきわめて親近かつ明らかなことであつて、これから容易に推考しうるところであるし、これが単に導管(5)から液体を袋(3)に注ぎこむというのであれば、引用例においても液体を注入口(j)から注入するものであり、また、一般に開口部が一つだけある容器に開口部から注ぎこむことが周知のことに属することからなお当然のことであるので、いずれにしても、本願実用新案において導管(5)を液体燃料の注入送出の両用に用いるとの点に、従来の技術に比し特別な考案力の存在を認めることはできない。

なお、本願実用新案は、導管(5)を液体燃料の注入および送出の両用に用いる点において、引用例に比し構造が簡便であるけれどもこのような構造が当業技術者のきわめて容易に推考しうるものであることは、以上の説示によつて明らかであるばかりでなく、右構造は、簡単である代りに、ガスの圧力によつて液体を圧出する場合導管(5)の首部(4)の下部の細径部を圧縮閉鎖することにもなり、したがつて、液体の圧出作用が不円滑となる欠点を蔵するところ、この欠点に対処する配慮のされていることの認められない本願実用新案においては、結局これも顕著な効果ということはできず、かえつて、本件審決の指摘するように、引用例の前示構造と対比し、より原始的な考案であるとの詳価を免れない。

また、原告は、液体燃料送出の際、燃料袋(3)の中の液体燃料が導管(5)へ進み首部(4)の内部を通るから、首部(4)は内外から同じ力で圧せられることとなり首部(4)がせばめられることはないというけれども、袋(3)における液体燃料の収容量の減少した場合などを考えるとき、原告主張のような結果とならないことがありうることは、技術常識上明らかであるから、にわかにこの点に関する原告の主張を認めることができない。

四 右のとおりである以上、本願実用新案を当業技術者において引用例の公知技術にもとづき容易に推考しうるものであり旧実用新案法第一条の考案を構成しないものとした本件審決は、相当であり、その取消を求める原告の本訴請求は、理由がない。

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